おおきな伊勢海老が跳ねる「勝浦朝市」

ミニコミ紙つくりの「きらっとシニア倶楽部」は西東京市の友好都市・千葉県勝浦市(外房)を9月14・15日の両日、取材のため訪問した。勝浦まで田無から西新宿ー羽田間の新地下高速道路と東京湾アクアラインを通って約2時間半のバス旅行。

勝浦市はリアス式海岸の広がる漁港の町、観光課のみなさん、まち歩きボランティアのみなさん、祭り屋台を丁寧に説明して下さった保存会会長、朝市の露店主のみなさんなどなど、大勢のみなさんの温かいおもてなしのあふれる町。

両市が友好都市となった理由は、西東京市にある田無神社本殿の彫り物と勝浦市の祭屋台の彫り物が同じ江戸幕府の官工・嶋村俊表の作だったことがきかっけ。

姉妹都市めぐり特集号を発行するための取材旅行で、私は「かつうら朝市」を担当した。その原稿を記録する。

 

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日本三大朝市のひとつ、400年以上も続く勝浦市の朝市、秋の訪れを感じるとはいえ半袖シャツ一枚で過ごせる好天気、朝9前に到着したときは、すでにピークが過ぎていたのだろうか、聞いていたような混雑はなく、おかげで隅から隅まで約300mをゆっくり歩きながら、露店主のみなさんから人情味あふれるお話を聞くことができた。案内書には朝市は朝六時から午前11時までとあったから、9時を過ぎると市場は、それほど賑わいを感じるという風情ではなかった。野菜を売っていたご夫婦に訊くと朝4時半に店を開いたそうだ。

 

勝浦朝市の場所は勝浦市内に月の前半と後半で異なり下本町と仲本町の二か所で立つ。私たちが訪れた9月15日は、60段の石段に全国から寄せられたひな人形が飾られる「かつうらビッグひな祭り」で有名な遠見岬神社のそばの下本町朝市通りだった。

 

露店の数は土日だと70店以上、週日でも60店近くは並ぶらしいが、私たちが行った日は出店数は34店と少なかった。路上に通りを挟んで向かい合わせに並ぶ露店、店の広さは一坪くらい、天井にシートを張った店、路上にシートを敷いただけの青天井の店。台を置いてその上に板を並べて水槽や発泡スチロールの箱がある。中には巨大な一尾一㌕もありそうな活き伊勢エビや大きなサザエ、片や氷水に浸けられたカツオ、イサキ、カサゴ、金目鯛などが並ぶ。また、別の店ではアジやサンマ、イカの干物、ひじきやワカメ、テングサなどの海藻類が並べられていた。さらにりんご、梨、柿、みかん、スイカ、野菜ではかぼちゃ、茄子、ゴーヤ、ピーマン、生姜、落花生、長さ15cmもある激辛の赤唐辛子などなど、新鮮な果物、野菜を売る店が多い。出店する場所はいつも決まっているそうだ。朝市は魚介と野菜、果物など完璧の品揃えの市場だ。

 

朝市に集まる人の大方は地元の買い物客。その中に観光で来ている人が交じって店主と楽しそうに、あるいは新鮮さと値段の安さに好奇の眼差しで問い質すような顔つきで話し込んでいる風景をあちこちで見た。干物は店先で炙られて試食させてくれる。周囲に漂うめざしやサンマを焼く煙と香りに引き込まれ、私たちは遠慮なくめざしを頭からかぶりついた。試食する人はきっと観光客か他の町から来た人たちだろう。

 

大きな伊勢海老を買おうとしている東京から来たという夫婦連れと露店主の主人とのやり取りを聞いた。伊勢エビやサザエを指差しながら「ここにあるのはみんな千葉近海ものだよ、エビはクーラーなしで三十時間は生きている。オレの方からうまいなんていわない、うまいかどうかは食べたお客が言うことだよ」。するとお客の奥さんが「そうね、おいしいよ、いつもここから買っているけれどおいしいよ」と。400gと量ってもらい3000円を支払いながら話し、私たちの方を向いて「冷蔵庫に少し(の時間)入れといて、それから捌くの、そうしないと暴れて大変だから」と教えてくれた。どうやって食べるのか訊くと「もちろん、お刺身にする、それが一番おいしいから」と。袋に入れられたエビが中で動き回っているのが分かる。そのお客がにこやかに去って行った後、店主に訊くと、今のお客さんは10年くらい前に初めてやって来て、今は電話で注文してきたり、時々買いに来たりだとか。仲良くなってここを覚えてもらって、それで伊勢エビをうちで買ってくれるとうれしそうだった。

 

いろんなお店をのぞきながら歩いた。干物屋のおばさんのところで立ち止まって訊ねた。「もう長くやってるよ、仕事だから。私は西東京市の市民まつりに毎年行ってるよ、友好都市物産展に出店してるから。今年も11月15日、いこいの森公園へ行くよ。また会おうね。おまつりは二日間だそうだけど、私たちは日曜日だけだからね。」 私たちは必ず行くと約束した。

 

変わり種の店を見つけた。仏壇に供える香木、しきみを売っている店、この辺りは日蓮宗の信徒の多い町だったという。さらに、藁を撚って作った腰紐を売っている店、お祭りのとき腰に巻くと魔除けになるのだという。買って行った人がいた。大漁祭りが近いためだ。生け花、造花、それに古木をくり抜いて作った植木鉢と盆栽など、露店はさまざまだ。

 

市民の台所として日常生活に溶け込んでいる「かつうら朝市」、漁港の町にしては果物や野菜の多いのが意外だった。売られている商品は勝浦や銚子に揚がった近海ものの魚介、野菜や果物は主に千葉県産だ。朝市は昔々からの伝統だから今に続いているのだろうか、乾燥ワカメの中のごみを選り分けていた海藻を扱っている店主に尋ねたら、「売る者も買う人も市場はここだと思っている。買う人に便利だし売る人には都合がいいから」と返ってきた。

 

勝浦朝市、歴史的に長い習慣、伝統が今なお息づく。しかし、店主は高齢者が多く目につき、露店には、若い人は離れて行くのか見当たらない。朝4時半から来て店を張り、野菜や果物を並べて客を待つ仕事、それが毎日では厳しい仕事だ。毎週水曜日と元旦だけがお休みなのだそうだ。

 

市内至る所で目につき、朝市の開かれる下本町通りにも所々に勝浦担坦麺の旗が風に揺らめいていた。勝浦市が「食からの町おこし」として力を入れている町の活性化活動だ。地元の漁師や海女たちが冷たい海仕事の後に体を温めるメニューとして定着した勝浦の食、昨年はB1グランプリで上位入賞を獲得したそうだ。冬でも花が咲くという温暖な町、勝浦。しkし、冬の朝市は寒いことだろう。朝市でお店を張る人、買いに来る人、勝浦タンタンメンは朝市の人たちが温まるのに最適な食だと思った。


(注)日本三大朝市 … 勝浦朝市、能登輪島、岐阜高山 


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